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「生存戦略」としての子育て【1】ーとにかく楽なフィリピンの子育て vs とにかく大変な日本の子育て

フィリピンでは若いママが次々と子どもを産みます!
フィリピンでは若いママが次々と子どもを産みます!

この記事では、日本とフィリピンの子育て、こんなに違うという話をします。文化、歴史、社会制度、経済水準が異なる日本とフィリピン、違って当たり前です。安易な比較は意味がありません。

 

しかし、両国の子育てを「生存戦略」という視点から見てみると、フィリピンで人口が急増し、日本で人口が急減しているか理由が面白いほどクリアになります。

◆このままでは「日本消滅」?!

ご存じのとおり、日本は人口急減社会です。2019年、とうとう出生数が90万人を割れてしまいました。政府予測よりも2年も早い90万人割れです。ハイペースな少子化の進行で「日本消滅」が現実味を帯びてきてしまいました。 

 

このままでは、年金制度の破綻、労働力不足、国内市場の縮小、都市のスラム化、治安の悪化、税収減による公共サービス低下などが避けられず、日本の特徴であった「便利・安全・安心」の暮らしが維持できなくなると言われています。「消滅」は免れても、あと数十年で先進国から転落することはほぼ間違いありません。

 

日々の暮らしを見れば、非正規雇用が増え、低賃金や長時間労働が蔓延、特に若い世代の人たちの生活はますます過酷さを増しています。育児の当事者の間では、産後クライシス、産後うつ、ワンオペ育児、待機児童問題などなど子どもを産み育てることに喜びを感じられない状況が広がっています。

◆「人口ボーナス」で経済躍進中のフィリピン

一方、フィリピンは経済が発展し続けています。この背景には「人口ボーナス」(総人口に占める現役世代の割合が上昇し、経済成長が促進されること)があります。下の「人口ピラミッド」をご覧ください。惚れ惚れするような安定感のある三角形です。 

 

経済成長率はここ数年6~7%で推移しており、調査会社オックスフォード・エコノミクスが2019年に発表した「世界の経済成長に影響を及ぼす新興経済国」では、なんとインドにつく世界第2位にランキングされています! 

 

子どもと若い人であふれかえるフィリピンから高齢者ばかりが目立つ日本に帰ってくると、日本人の疲れっちゃってる感と日本のジリ貧感が半端ではありません。フィリピンの平均年齢は24.3歳、日本の平均年齢は46.7歳。もうほとんど親と子の年齢差。若い国と老いた国では、街の活気が違います。思い描ける未来の色が違います。

 【図1】日本とフィリピンの人口ピラミッド(左が日本、右がフィリピン

◆子どもを産み育てることに「夢」をもてない社会、日本

日本では、1998年、一向に歯止めがかからない少子化に危機感を強めた厚生労働省が、“子どもを産み育てることに「夢」を持てる社会を”(厚生白書、1998)と謳いあげました。しかし、20年経ったいま、実現どころか、目標から遠のいています。 

 

私は、超少子高齢化で現役世代と高齢世代の人口アンバランスが著しくなること自体よりも、いま日本が子どもを産み育てることに夢・喜びを感じられない社会になってしまっていることに一層問題を感じています。とても悲しいことだと思います。

 

たとえば、つい最近結婚したばかりの息子(31歳)がぼやいていました。 

「友達の話だけどさ~、子どもが生まれたらうまくいかなくなって離婚しちゃったんだ。子どもが産まれるまでは本当に仲良くていい感じの夫婦だったのに・・・。そんなの聞くと、(自分たちも)子どもを産んで大丈夫か~って思っちゃうんだよね~」。 

 

既婚女性・ワーキングママの家事育児負担が大きすぎて、女性たちの「子ども(産むの)、どうしよう?」「産んでも保育所入れなかったらどうしよう?」の迷い・葛藤は深刻です。なかなか産む覚悟ができずに、産み控え・産み伸ばし。

 

夫婦の理想子ども数は2.32人で先進国の中では多い方なのに、現実の合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に産む子どもの数)はたったの1.43人。人口を維持するために必要と言われている2.07人に遠く及びません。

◆「子ども産み育ててほしい」と思いますが・・・

私事で恐縮ですが、私は、三人の子ども(うち二人は双子)を産み育てました。大変でした。肉体的にきつかったというのもありますが、それ以上に「私だって、○○がしたい」の葛藤に苦しみました。さらには、こんなふうに思ってしまう私は「母親失格」なのかとも悩みました。 

 

この○○に入るのは、「トイレくらいゆっくりしたい」「(1~1.5時間おきに双子の授乳をしていた頃は)せめて2時間続けて寝たい」「座って新聞が読みたい」「仕事がしたい」「少しは自分のことがしたい」などなど、軽重さまざまな自己欲求でした。 

 

ただこんな心理的・精神的な葛藤に苦しみつつも、全幅の信頼を一途に寄せてくる子どもの存在は愛しく、子育ては何ものにも代えがたい貴重な体験でした。 

 

それだけに、子育てに不安を感じている若い世代の人たちにも、ぜひ産み育ててほしいと思います。日本の未来を救うためではなく、自分(たち)のかけがえのない人生体験として。

 

しかし、残念なことに、いまの日本では迷っている彼・彼女らに向かって、「大丈夫よ」「なんとかなるわよ」なんて、とてもじゃないけど言えません。

2016年、NHKスペシャルで放映され大反響。テーマはなぜ日本の子育てはこんなにツラいのか?
2016年、NHKスペシャルで放映され大反響。テーマはなぜ日本の子育てはこんなにツラいのか?

◆フィリピンでは子どもを産んでも生活が一変しない

一方、フィリピンは「子育てパラダイス」です。産後クライシスなし、ワンオペなし、待機児童問題なし、超絶イージーです。大家族のフィリピンでは、祖父母、おじ、おば、いとこ、近所のおじちゃん、おばちゃんなどみんなで子どもの面倒をみます。 

 

何より驚いたのは、「母親が子育てすべし」の規範がないことでした。ですから、子どもが産まれても母親の生活が一変することはありません。私を子育て期に悩ませた数々の葛藤もほとんどありません。 

 

一言でいうと、子どもから「自由」。子どもが産まれてから大学院に行ったり、海外に働きに出たり、そのため、実家や親せきの家にずっと預けっぱなしなんてことも一般的です。家族や近所の人を含め、面倒をみれる人が、みれる時に、みれる範囲でやればいいと考えています。日本のように子どもが生まれるとすべてが「子ども中心」「子ども優先」になってしまうことはありません。 

 

当校の女性教師E先生(事実婚、2歳児の母)などは、「日曜日、子どもの世話は私のTurn(順番)なの~」「だから日曜日はすごく大変~」と肩をすくめて笑っています。「Turn(順番)」ですよ、「Turn(順番)」?! ひとごと感、満載。こんな呑気なママたちをみると、「フィリピンの母親って、もしかして産むだけ?」と突っ込みたくなります。

当校ウィルの教師たち:うちママ先生が3名。”ママ超忙しい”感はゼロです。
当校ウィルの教師たち:うちママ先生が3名。”ママ超忙しい”感はゼロです。

◆「結婚」という枠からも自由

また、法的に離婚が禁止されているせいなのか、女性が経済的に自立しているからなのか、結婚の形より愛し合っている事実それ自体を重視するからなのか(フィリピン人はとても恋愛体質!)、「事実婚」を選択するカップルがかなり多い印象です。このことも子産み子育てへのハードルを低くしています。 

 

当校には子持ちの女性教師が4人いますが、初婚・再婚も含めて全員が事実婚です。ご存じのとおり、現在、スウェーデン、フランスなどでは産まれてくる子どもの半数以上が事実婚カップルから生まれてきますが、それに近い感じです。この点も、妊娠したら慌てて結婚する「できちゃった婚」が多い日本とは大きく異なります。

 

産まれてきた子どもの父親といっしょになるのかと思いきや、その子どもを連れて別のボーイフレンドと一緒に住む(同棲か結婚かは定かではありません)。そんなときも、周りから「母親なのに~」「子どもかわいそう~」的な批判・非難の声は聞かれません。 

 

さらには、日本的には育てる必要・責任もない子ども、例えば元夫の連れ子(14歳)を別れた後も(今の彼氏との間にできた)子どもたちといっしょに育てていたりもします。「なんで~?」と驚いて聞くと、「その子が(本当の父親の元で暮らすのは)いやだって言うのよ~」とこともなさげ。 なにっ、その懐の広さ?!

 

いやはやフィリピンの子育ては、なんでもアリの様相を呈していて、頭がくらくらします。

◆いまの日本の子育てー「近代家族」の特殊な子育て?!

ところで、日本では当たり前になっている「親(とりわけ母親だけ)が子育てする」ですが、世界的・歴史的には当たり前でもなんでもありません。社会学では「近代家族」(※1)と呼ばれている家族の「特殊」な子育てです。 

 

本来、「村中みんなで子育て」の言葉とおり、大勢で行うのが人類の子育てでした。それほどヒトの乳幼児は手のかかる存在。生物である「ヒト」として、一人二人では無理があるのです。にもかかわらず、親(とりわけ母親)だけが行わざるをえないのが「近代家族」のワンオペ育児、孤育てです。 

 

子どもへの責任を一身に担わされる親が肉体的・心理的・経済的に追い詰められるのは当然と言えるでしょう。

元米国大統領候補のヒラリー・クリントンが執筆。日本でも話題に
元米国大統領候補のヒラリー・クリントンが執筆。日本でも話題に

◆フィリピンでは社会全体が子ども・子育てに寛容

フィリピンでは、親だけが子育て責任を負わない感覚は、街でも。街中のレストランに赤ちゃん連れでいくと、店員さんが「かっわいいい~」と寄ってきます。「私が抱っこしてるから、ゆっくり食べて!」ともう赤ちゃんに夢中。他の店員さんたちも集まってきて「私にも」「僕にも」と可愛いベービー争奪戦のような微笑ましい光景に。 

 

それに対して、日本では「なんで?」「どうしちゃったの?」と悲しくなるニュースばかりです。電車にベビーカーをもって入ると、蹴ったり舌打ちされる。新しい保育園を建設しようとすると、周辺住民から反対の声があがる。「ガキ邪魔なんだよ、家に引っ込んでろ」コールが幅を利かせています。 

 

もちろん、フィリピンにも子育ての問題はあります。主に貧困からくる虐待や非行(窃盗、薬物使用)などです。しかし、フィリピン人は自分の子・他人の子にかかわらず、大の子ども好き。子ども連れの人に対しても、暖かく優しい印象です。 

 

行政も無償で通える保育園を整備していたり、公立だったら大学まで授業料は無料だったりと、国をあげて子どもをウェルカムしています。本当に「子育てパラダイス」です。

3歳から無料で通える保育園。フィリピンでも子育て支援に力を入れています。
3歳から無料で通える保育園。フィリピンでも子育て支援に力を入れています。

◆フィリピンの子育ては優れた「生存戦略」

以上、フィリピンと日本の子育てを見てきました。フィリピンの子育ては、日本のそれに比べたら、はるかに楽です。子育てによって親(とりわけ母親)が犠牲にするものは日本に比べてはるかに小さい。 

 

その上、【2】に詳しく述べますが、見返りが大きいのです。“楽なのに見返りが大きい”。ならば、子育てをしない手はないですね。実は、フィリピン人にとって子育ては優れた「生存戦略」なのです。 

 

ここで「生存戦略」とは、読んで字のごとし、生きていくための優れた方法、よりよく生きていくための方法といった意味です。人はある行動(たとえば、子どもを産み育てる)を選択するとき、自分にとってプラスになるか、マイナスになるかを比較考量して、よりよく生きられる、より幸せに生きられる方を選択します。 

 

この意味で、現在の日本の子育ては「生存戦略」として大いに疑問符がつきます。このあたりをさらに「『生存戦略』としての子育て【2】ー”見返り”が大きいフィリピンの子育て vs ”見返り”が小さい日本の子育て」で見てみることにしましょう。

 

 

【注】

※1:「近代家族」は産業革命以降に西洋で出現し、日本では1960年代の高度経済成長期にサラリーマン家庭に普及した家族様式です。この家族は人類に普遍・不変のものではなく、世界的には地域(欧米、日本など)限定的、歴史的にはせいぜい300年、日本ではたかだか80年の歴史しかもたない「特殊」な家族です。

 

【参考】

NHKスペシャル取材班 ママたちが非常事態?!:最新科学で読み解くニッポンの子育て 2016 ポプラ社

ヒラリー・クリントン 村中みんなで子育て 1996 あすなろ書房 

【筆者紹介】平山順子  

元名古屋大教育学部准教授(心理学Ph.D)

共著書『家族心理学への招待』(ミネルヴァ書房、2019年現在、第2班9刷発行のロングセラー)

現在、フィリピンで英語学校「ウィルイングリッシュアカデミー」経営。発達心理学、ジェンダーの視点から子育てを応援するサイト「ワクワク育児革命~子育て・夫婦関係に悩むママ・パパのために」運営。

 

 

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コメント: 1
  • #1

    橋本 一男 (月曜日, 27 1月 2020 09:36)

    あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。実は今ベトナムは旧正月(トテ)ですので、知り合いと会うと、新年のあいさつをします。
     順子さん。いつもブログ楽しみに読んでいます。フィリピン日本の相違を素人でも分かりやすい言葉で説明されているので、とても理解しやすいです。また、グラフや写真を掲載していただいているので更に興味をそそります。
     今回も、独自の視点で「子育て」の意義を「生存戦略」という言葉で表現されていました。フィリピンでの語学学校経営だけでなくフィリピンや日本の今後について多くの識見をお持ちの上、ボランティア活動などの社会貢献活動もされているその行動力に頭が下がります。ただ闇雲になんでもいいから取り組むのではなく、自分の今までの生活経験や仕事・大学での教授経験などが上手く生かされ行動されていると感じます。
     今回はフィリピン日本の人口ピラミッドの違いに驚きました。そうなったのは、なぜか、そしてこれからどうすればいいのかなど考えさせられました。
     私の方は、2月になりますと残り4カ月となり、まとめの時期に入っていきます。ベトナム人日本語教師や他の先生方との関係も大変良好で、この期間が終わっても学校独自の給料でいて欲しいと言われています。生徒も大変馴染んでくれています。日本人教師によっては、大変な学校や苦労している方もいますが、本当にラッキーです。
     ウイルに行く時期は、まだはっきりしませんが7月上旬くらいかなと思っています。平山さんご夫婦までとは、いきませんが何か形に残るような活動ができればと順子さんのブログを読みながらいつも考えています。
     お会いしたときに、またいろいろなお話を聞くのが楽しみでなりません。
    無理なくブログを続けていただければ、ありがたいです。今後もよろしくお願いします。