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フィリピンへの教育移住【2】―英語優先・偏重・崇拝は危険?!

インターのグレード5(日本の小4~5)教室におじゃましました
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◆むしろ、10歳過ぎてからの方が・・・

記事「フィリピンへの教育移住【1】―英語は10歳過ぎてからでは遅いのか?」では、「英語のスタートは、10歳までに始めないと手遅れなのか?」という問いに対して、このような考え方の元になっている仮説は、確たる根拠のないあくまで「仮説」であることみてきました。 

 

実は、遅くないどころか、むしろ、10歳過ぎて母語が確立してからの方がいいのではないかとさえ言われているのです。 

 

その理由は、下記の2つです。 

 

1つ目は、その方が早く効率的に学習できる(第二言語の習得には母語による認知能力が重要となるため)。

 

2つ目は、子どもの言語発達が不十分な段階(10歳前後以前)でバイリンガルを強要すると、「ダブルリミテッド」(両言語とも中途半端)になってしまう可能性がある。

◆認知と言語は「二人三脚」で発達

いずれも聞き捨てならぬ内容ですね。順にみていきましょう。まず、1つ目の理由です。なぜ、10歳過ぎてからのほうが第二言語を早く効率的に習得できるのでしょうか。 

 

それは、第二言語の習得には母語による認知能力が必要になるからです。 

 

「認知」とは、何やら難解な響きですが、要は、アタマで考える知的な作業はすべてです。モノを見分け・聞き分ける力(知覚)、イメージする力、カテゴリー化(分類・比較)する力、推理・推論する力、記憶などなど、あらゆる知的作業です。 

 

その認知と言語の関係を研究する認知言語学によれば、認知発達なくして言語(母語)の発達なし、逆もまた真なりで、言語発達なくして認知発達なし、というのです。要するに、「認知」と「言語(母語)」は二人三脚状態。手に手をとって、あるいは肩と肩を抱き合って、共に成長・発達するというワケです。

 

私たち日本人はとかく英語コンプレックスが強く、自分にとっての母語である日本語の有難さなんて忘れがち。進学や就職でつまずいたりすると、「ああ、英語さえできれば・・・」なんて嘆いたりしますが、なんと多くを母語である日本語に負っていることでしょうか?!

言語は思考の道具:ヒトは言葉を使って考えている
言語は思考の道具:ヒトは言葉を使って考えている

◆両方とも中途半端な「ダブルリミテッド」

次に、子どもの言語発達が不十分な段階で(10歳前後の母語が確立する前に)バイリンガルを強要すると、「ダブルリミテッド」になってしまう可能性があるという話に移ります。 

 

その前に、皆さんに質問です。「言葉は何の役に立っていますか?」「言語の役割・機能は何ですか?」。ほとんどの方が、「言語はコミュニケーションの手段・道具でしょ」と回答されるのではないでしょうか。 

 

もちろん、それは言語の重要な機能です。しかし、唯一の機能ではありません。言語は、もう一つ重要な機能を果たしています。それは、「思考の道具」としての機能です。 

 

私たちは言葉によって世界を認識し、物事を考えてといます。「認知」と「言語」は二人三脚の話を思い出していただけばこの辺りの事情はよくお分かりいただけるではないでしょうか。

◆2つの言語能力:どちらが重要?

これら2つの言語の機能を踏まえ、心理学者のカミンズは、子どもが身につけていけなければならない言語能力を次の2つに分けています。

 

         BICSBasic Interpersonal Communicative Skills)生活言語能力または日常言語能力

 

         CALPCognitive Academic Language Proficiency)認知学習言語能力または学習言語能力 

 

BICSは、文字とおり日常的な生活のコミュニケーションに必要な言語能力。CALPは学習に必要な言語能力で、読み書きの基礎となる言語能力です。 

 

それぞれ身に付く時期ですが、母語であれば前者は4歳くらいまでに、後者は10歳ぐらいまでと言われています。 

 

「教育移住」したり、親の海外転勤で子どもがどこか外国に住むことになったり、その国のことばを第二言語として習得する場合、BICSは平均1~2年で身に付くといわれており、2年もすると子どもは日常会話には不自由しなくなります。 

 

しかし、子どもの年齢にもよりますが、CALPについては年齢相応のレベルに達するには平均5~6年かかるといわれています。 

 

たとえ「言語の天才」といわれる子どもであっても、第二言語(外国語)で学校の勉強についていけるようになるのにずいぶん時間がかかるのですね。このように時間がかかるのは、CALPは、BISCのようにコンテキスト(背景、状況、相手の表情や身振りなど)が利用できず、推論、分類、論理などの認知能力が必要になるためです。

Kちゃんはたった2週間で英語でお買い物もできるように!
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◆第二言語環境に置かれる時期によっては

そのため、思春期を迎える10歳ごろという時期は非常に重要です。なぜなら、このころまでには子どもの母語はほぼ確立しているからです。 

 

母語が十分発達した段階でバイリンガルをスタートさせると、第二言語の発達も早い。うまくいけば、均衡バイリンガル(両言語とも同等に使いこなすレベル)に近づくことができます。 

 

逆に、8歳から10歳くらいの時期にバイリンガル環境におかれる(例えば、英語圏に移住する)など言語環境が大きく変わると二言語とも不十分になりやすいと言われています。バイリンガルを目指したつもりが、両言語とも十分に使いこなせない「ダブルリミテッド」に育ってしまう可能性があります。

◆「ダブルリミテッド」の悩み深刻

以前、ハワイでダイビングショップを経営している日本人女性(40歳代)にこんな話を聞きました。子どもを連れてきた時期が悪かったのか18歳になる息子さんが「ダブルリミテッド」になってしまったというのです。 

 

日本語でも英語でも日常会話はできる(BICSはある)けれど、どちらの言語でも書いたり読めたりできない(CALPが不十分?)とのこと。「だから日本でもハワイでも大学にいけない」し、「まともな仕事に就けない」と嘆いていらっしゃいました。 

 

日本でも、現在、日系二世の子ども達が同様な問題を抱えています。1990年代以降、ブラジルやペルーの日系二世が「定住者」として日本で就業するようになりましたが、その子どもたち(日系三世)に就学・就職上の問題が生じています。 

 

ポルトガル語しかできなかった彼らも比較的すぐに日本語で日常会話はできるようになります。しかし、母語が確立する前に日本に連れてこられた子どもたちの中には、日本語で書いたり読んだりには困難を抱えている子どもが多いのです。そのため、高校進学率は限りなくゼロに近いのが現状です。 

 

このように見てくると、人間にとって、母語がいかに大切であるか、子どもの認知発達に重要な役割を果てしてくれているかを改めて思い知らされます。「財産」「宝」ともいえる大切な存在です。

英語ゼロの子どもが英語で授業が理解できるようになるにはそれなりの時間が・・・
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◆英語優先・偏重・崇拝は危険?!

バイリンガル、マルチリンガルを目指すのは大いに結構。実際、バイリンガルの子どもはモノリンガルの子どもに比べて認知能力が高いとの研究結果が明らかにされています。それにいくつもの言語ができることは子どもの将来に無限の可能性を開きます。 

 

それだけに親子留学・教育移住を検討するなら、親はその時期と方法(そのまま海外にとどまるか、いずれに日本に戻るかなど)について、十分慎重に検討するべきだと思います。親がいたずらに英語優先・偏重・崇拝に陥り、母語を蔑ろにするのは危険ではないでしょうか。

◆「日本でも英語はできるのに・・・」

先ほどのM先生のコメントに戻りたいと思います。「英語なら日本に居たって・・・」に込めた思いは何だったのでしょう。実は、M先生、そんな生徒さんを知っているのです。今年の夏、私が経営する英語学校に単身再留学してくれたHさん(15歳、高1)です。 

 

実は、彼女、3年前にも親子留学してくれました。当時12歳(中1)のHさんは、まさかの英検2級(日本の有名大学の入学者でも難しいレベル)! 私の「どうしてこんなに出来るようになったのですか?」質問に対し、お母さまは回答がまた驚くべきものでした。なんと、Hさん自ら意欲的に英語を勉強してきた結果とのこと。 

 

さらに聞くと、そのきっかけとなった出来事がありました。彼女が5歳のとき一緒にオーストラリアを2か月ほどバックパッカー旅行したそうです。この母娘旅行が彼女の「英語欲」に火をつけたそうです。 

 

英語が拓いてくれる大きな地平・エキサイティングな世界に目覚めた彼女は、日本にいながらにして、バリバリ自ら英語力をつけていったとのこと。高校生になったHさんは「国連ジュニア大使」として国連の場で発表をすることになっています。下記の動画(↓)で彼女の2週間の「発信力強化コース」の学習成果をご覧ください。

 

要は、子ども自身のやる気スイッチが入るかどうかがキーなのだと思います。 

 

最近(201910月)ノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんが化学に興味を持ったきっかけをこんなふうに語っていました。 

 

「小学校4年のとき新任の担任の先生が、1冊の本を薦めてくれた。英国の科学者ファデラーの『ロウソクの科学』だった。ロウソクはなぜ燃えるのか、炎はなぜ黄色のかといった内容で、子ども心に化学は面白そうだなと思った。・・・好きこそものの上手なれ、ではないが、子どもが関心を持つとどんどん得意になるんです」

筆者が経営する「ウィル・イングリッシュ・アカデミー」の公式Youtubeチャネル

https://www.youtube.com/channel/UCk5mae6HEZB9kgCvtWOf5UAにて配信中の動画です

◆最後に親子留学・教育移住を検討中の親御さんへ

親子留学・教育移住な盛んなドゥマゲッティにいると、「グローバル時代に英語は必須!」「これからの子どもは英語くらい話せなければ!」とおっしゃる親御さんによく出会います。 

 

私もそのとおりだと思います。だからこそ、Hさんのように、「英語って面白そう!」「私も英語できるようになりたい!」、子どもの心にそんな火を灯す、そんなお手伝いがしたいと切に願っています。 

 

どうか英語に関して、焦らず、欲張らないでください。そして、まずは、子どもの心に「英語、面白い!」「できたらいいな!」、運よくそんな希望の火を灯せたらラッキー!! くらいの気持ちで、気楽・気軽に親子留学を楽しむことから始めてみてはいかがでしょうか。 

【参考図書】

ジョンオーツ 子どもの認知と言語はどう発達するかー早期英語教育のたまの発達心理言語学 2010 

【筆者紹介】平山順子  

元名古屋大教育学部准教授(心理学Ph.D)

共著書『家族心理学への招待』(ミネルヴァ書房、2019年現在、第2班9刷発行のロングセラー)

現在、フィリピンで英語学校「ウィルイングリッシュアカデミー」経営。発達心理学、ジェンダーの視点から子育てを応援するサイト「ワクワク育児革命~子育て・夫婦関係に悩むママ・パパのために」運営。