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フィリピンへの教育移住【1】ー英語は10歳過ぎてからでは遅いのか?

例年夏休みには大勢の親子がフィリピンに:なかには「教育移住」を検討する方も
例年夏休みには大勢の親子がフィリピンに:なかには「教育移住」を検討する方も

◆子どもが小さい頃からの「教育移住」って、どうなん?

 子どもが小さい頃からの「教育移住」ってどうなのでしょうか?!

 

最近、親子留学先として人気のフィリピン・ドゥマゲッティですが、なかには「教育移住」をする親子・ファミリーも散見されます。彼らの多くは、最低1年以上は腰を据えて、現地校やインターに通って英語力習得を目指します。

  

この記事では、「教育移住」をするならいつ頃がいいのか、子どもの年齢との関連で考えてみたいと思います。結論を先取りすると、慌てることはない、渡航時期(子どもの年齢)によっては、失うものも決して少なくないという話をしたいと思います。 

 

まずは、子どもが小さい頃からの「教育移住」ってどうなのか、そんな問題を考えるきっかけになったあるエピソードをご紹介したいと思います。私たちは英語学校を経営していますが、その英語学校ウィルのフィリピン人教師M先生の発言です。 

 

それは、子どもが小さい頃から「英語、英語」と大騒ぎしがちな日本人に向けられた、あまりに図星なドキッリ発言でした。

◆フィリピン人教師の素朴な疑問、「なんで?!」

一緒に車に乗っていたときのこと、M先生は突然、運転をしていた私にこんなことを聞いてきました。4年間近くドゥマゲッティで「教育移住」をしているAさんファミリーについての疑問でした。Aさんファミリーは、母親が幼い子ども二人を連れてきて現地の学校に通学させていました(上の子が6歳以降、下の子が4歳以降)。M先生は二人の子どもたちに一時期、英語を教えており、とても可愛がっていました。 

 

「マム順子、教えて! Aさんママはなぜあんなことしているの!? 私には全く分からない。SちゃんとNちゃん、お父さんもお母さんも日本人で、せっかく日本で生まれたのに・・・。あんなに小さいうちからお父さんから離され、フィリピンに連れて来られて・・・。英語のため? たしかにフィリピンの学校に通えば、日本にいるより英語はできるようになるかもしれない。でも、それだけ! 大学生になってつまらないフィリピン男性と恋に落ち、妊娠でもしちゃったらもうお終い。英語なら日本に居たってできるのに・・・」 

 

ここで、M先生が疑問に感じていること、それは、まさに、現在、認知言語学や第二言語習得理論が明らかにしようとしてきたことだったのです。以下ではこの点について詳しくみていきたいと思います。

教育熱心で定評ミミ先生(写真右)のあまりに図星のドッキリ発言でした
教育熱心で定評ミミ先生(写真右)のあまりに図星のドッキリ発言でした

◆10歳過ぎると手遅れ?

親子留学や教育移住をする親御さんのなかには、英語のスタートは「早ければ早いほどいい」と思っていらっしゃる方が少なからずいらっしゃいます。なかには、本ブログの記事「失敗する親子留学 vs 成功するフィリピン親子留学【2】―とにかく“子どものため”?!」で紹介したように、「10歳過ぎたら手遅れだ」と焦っていたりする方もいらっしゃいます。 

 

「臨界期仮説」の影響ですね。この仮説は、子どもが、ある一定の時期までに言語を習得しなければ、習得が困難になるという考え方です。時期的には7歳~13歳といわれています。 

 

この説が根拠とするのは脳神経学の知見です。人間の脳では、思春期を堺に右脳と左脳でつかさどっていた言語機能が脳の左半球に偏ります(脳の側方化/言語機能の一側化)。そこで、この説を唱えたレネバーグは、脳がまだ柔軟性をもっている思春期(10歳前後)以前に言語習得はスタートされなくてはいけないと考えました。

大好きな乗り物、「もう英語で言えるよ!」(小学生英語キャンプ@ウィル)
大好きな乗り物、「もう英語で言えるよ!」(小学生英語キャンプ@ウィル)

◆「臨界期仮説」は、母語についての仮説

このように聞くと、「やっぱり!」と焦ってしまう方がいるかも知れません。しかし、それは早計です。なぜなら、臨界期仮説は、「教育移住」の方が目標とする第二言語(外国語)【注1】についての仮説ではなく、母語についての仮説だからです。 

 

しかも、母語についてでさえ、実証されているわけではないのです。あくまで仮説の域を出ていません。 

 

もちろん、第二言語習得についても、年齢との間に関連がないわけではありません。特に発音など音声の習得に関しては、開始が早いほど有利であることを示す研究結果が多く示されています。 

 

しかし、その他の言語分野(文法、語彙など)については、開始年齢との間に相関があるのか否か、また関連があるとしたらどの程度あるのかなどについて、研究者の間で意見が一致していません。

◆「臨界期仮説」はカルガモの行動からヒントを

もともと言語の臨界期仮説は、1960年頃、動物行動学で発見されたある現象にヒントを得ています。「刷り込み」(カルガモの子どもは生まれて最初に動くモノの後を追う習性のこと)という現象です。長靴をはいた飼育員の後をついて回る子ガモの姿をテレビなどでご覧になった方もいらっしゃるではないでしょうか。 

 

しかし、人間の言語習得は、本能がそのほとんどを支配する鳥類の行動とは比べものにならないほど複雑です。特に第二言語習得は、開始年齢だけでなく、教育レベルや習得環境、そのほかさまざまな認知的・心理的要因などが複雑に影響を及ぼします。 

 

後述しますが、子どもがその言語に関心をもっているか否か、また、どのような動機で行うかなどの要因が大きくかかわってきます。

  

以上、特に第二言語(外国語)については「臨界期仮説」はあてはまらないことをみてきました。「早ければ早いほど」という考えは支持されていないのです。現に、皆さんの周りにも、大人になって学習を始め、ネイティブ並みに外国語を使いこなす人は少なからずいるはずです。

カモの刷り込み:13羽の子ガモに「親」認定されたおじさん
カモの刷り込み:13羽の子ガモに「親」認定されたおじさん

◆むしろ、10歳過ぎてからの方が・・・

むしろ、注目したいのは、第二言語習得研究では、10歳過ぎて母語が確立してからの方が、いいのではないかとさえ言われていることです。

 

この点については、記事「フィリピンへの教育移住【2】ー 英語優先・偏重・崇拝は危険?!“」をご覧ください。

【注1】「第二言語」と「外国語」の違い

生まれて最初に習得した言語で生涯使用し続ける言語を「第一言語」(別の表現で「母語」)という。それに対して、第一言語の後に習得される言語を「第二言語」という。

ただし、場合によっては、「第二言語」と「外国語」を区別することがある。「第二言語」とは、その言語がその社会で生活の手段、コミュニケーションの手段として使用されている場合の言語のことで、「外国語」とは、主に自国の教室の中で学ぶ第一言語以外の言語のことを指す。たとえば、英語が公用語であるフィリピン人にとっては英語は「第二言語」だが、日本人が日本の学校などで習う英語は「外国語」となる。

厳密には、「第二言語」と「外国語」には上記のような違いがあるが、本記事では、特に区別せず「第一言語」(母語)の後で習得する言語のすべてを「第二言語」(または「外国語」)を呼ぶことにする。

【参考文献】

バトラー後藤裕子 英語学習は早いほど良いのか 2015 岩波新書

白井恭弘 外国語学習の科学ー第二言語習得論とは何か 2008 岩波新書

【筆者紹介】平山順子  

元名古屋大教育学部准教授(発達心理学Ph.D)

共著書『家族心理学への招待』(ミネルヴァ書房、2019年現在、第2班9刷発行のロングセラー)

現在、フィリピンで英語学校「ウィル・イングリッシュ・アカデミー」を経営。発達心理学の視点から子育てを応援サイト「ワクワク育児革命~子育て・夫婦関係に悩むママ・パパのために」運営。

 

【お願い】英語学校ウィルは地元少年サッカーチームSPARTAN FC(貧困家庭の子どもたちが中心)のスポンサーをしています。地元リーグで準優勝を飾る強豪(?!)なのですが、靴はボロボロ、ボールはボコボコが悩み。中古のサッカー用品(靴7~17歳)を寄付してただけませんか? 「お問い合せ」でご連絡下さい。