· 

モンスターカスタマーのいない国、フィリピン:「モンカス」をやってみたけれど・・・

日本ではこんなモンカスが増殖中?!
日本ではこんなモンカスが増殖中?!

◆カスタマーがモンスターになれない国、フィリピン

フィリピンにはモンカス(モンスターカスタマー=サービス提供者に対して常軌を逸したクレームや迷惑行為をする客)がいません。

 

一方、日本では、モンカス増殖中。ここ3年ほど前から急激に増えているといいます。特に多いのが、家電量販店、デパート、コンビニ、飲食店、病院など。こうした所で、従業員を相手に大声を張り上げている客の姿を見たことがあるという方も多いのではないでしょうか。私もつい先日も、家電量販店で40代くらいの女性が店員さんをすごい剣幕で怒鳴りつけている姿を見ました。イヤですね。店員さんはひたすら「申し訳ございません」を繰り返していました。

 

NHKのクローズアップ現代でも取り上げらえていましたが、最近の特徴として、土下座の強要、暴力、「殺す!」「ネットにさらす」と脅迫するなど悪質化していること、また、お年寄りや働き盛りのビジネスマン風などごく普通の人であるなど広がりをみせていることです。

 

労働組合の8万人の流通・サービスに携わっている人を対象に行ったアンケート調査(2017)では、実に7割以上がカラハス(カスタマーハラスメント)の被害を経験し、迷惑行為を受けた人の9割がストレスを感じながら仕事をしていると回答しています。精神疾患をわずらった人も相当数いました。

 

なぜ日本ではこのようなことになってしまっているのでしょうか。この記事では原因を探るべく、「客という立場」の日比比較をしてみたいと思います。

フィリピン人従業員:こんな感じでお気楽&配置率が高い
フィリピン人従業員:こんな感じでお気楽&配置率が高い

◆あれっ、私って「お客さん」だよね!?

フィリピンに英語学校を設立したのを機に、フィリピン・ドゥマゲッティに住み始めて6年。所変われば日本ともろもろ勝手が違います。一番勝手が違ったのが買い物でした。

 

「あれっ、私ってお客さんだよね!?」と首を傾げること多々。いわゆる「お客様」扱いされたことが一度もありません。店側、サービス提供者が客に対して少しでも感じよくして、「いっぱい買ってもらおう」「また買いに来てもらおう」という意思が全く感じられないのです。

 

フィリピンの代表的ビール「サンミゲル・ピルセン」が大好きな私はよく近所のサリサリ(フィリピン中にある「ご近所のなんでも屋さん」)に買い出しにいきます。しかし、2回に1回は在庫がありません。「仕入れておくから明日来て」という言われるので、翌日行ってみると、“Not yet.(まだ)の一言。もちろん、「すいませんね」と言われたことはありません。

 

別にタカピーでも、愛想が悪いわけではありません。「あにはせよ~」と韓国語で挨拶してくるので、「私は日本人だから、『こんにちは』だよ」と教えてあげると、店中のスタッフが「こんにちは」「こんにちは」と練習してなにやら楽しそう。「じゃあ、『イー、アー、サンスウ・・・』は日本語?」と聞いてくるので「日本語では、『イチ、二―、サン・・・』よ」とカウント実演をすると、面白がって真似をします。位置関係でいうと、対等。客というよりは、お友達です。

 

余談ですが、久しぶりにこの店にビールを買いにいったら、店員さんが私に「1ケースいくらだったっけ?」と聞いてきました。「えっ、覚えてないよ。価格表があるでしょ」と答えたら、「それがね、なくなっちゃったのよ」。で、客に値段を聞くんかい、「オイ」と思い切りツッコミたくなります。こんな日本ではありえないやりとりが意外と楽しいショッピング@フィリピンであります。

フィリピンのコンビニ「サリサリ」:全国で100万店以上も
フィリピンのコンビニ「サリサリ」:全国で100万店以上も

◆家電量販店で「モンカス」をやってみた

こうして最近は、フィリピンにおける「客」というのは全くもって「お客様」ではないことを悟った私ですが、最初の1年はまだまだ「日本」をひきずっていました。

 

そんな頃、家電量販店でモンカスをやってみたことがあります。ことの発端はこうです。買って3か月しかたたないWater Server(自動給水機:フィリピンでは普及率はきわめて高い)が故障したので、買った店に持っていって修理を依頼しました(すぐ壊れるから通常メーカー保証は3か月)。2週間ほどして修理完了の電話をもらったので、修理品を取りに行きました。

 

ところが、当方の用件を聞いて奥に入っていった店員さん、すぐに戻ってきて、“Not yet.”とのたまう。「電話もらったんだから、『まだ』ってことはないでしょ」と食い下がる私。「でも、ないのものはない」と言い張る店員。「それはオカシイ。もっとよく調べて」と譲らない私。

 

「でも・・」「もっと」を何回か繰り返すうち、店中の店員さんが「どうした」「どうした」と集まってきて、私たちのやりとり物珍しそうに見物し始めました(フィリピン人ならもしかしてこれで引き下がるのか?)。そのうち「きっと別の店舗が電話したんだ」と言い出しました(その場しのぎ、一時しのぎの言い訳がものすごく多い)。「それはないでしょ。修理品はこの店にもってきたんだから」と私。「でも、ないんだから・・」と店員さん。

 

ここで引き下がってはわざわざ暑いなか来た意味がないと覚悟を決めた私は、「じゃあ、マネージャーを呼んで!」。出た~。モンカスの決まり文句。「いま、いない」。「じゃあ、電話で話させて!」。素直に電話する店員。「電話にでない」。こうなったら、最初に戻るしかない。「お願いだからもう一度探してみて!」。

 

待つこと約15分。「あった~」とのんきな顔して出てきた店員さん。さすが、”Sorry.”の一言くらい聞けるのかなと期待した私。が、空振り。結局、見物していた10名近い店員含めてお詫びの言葉は一言も聞かれませんでした。「よかったね~、あって!」みたいなヒトゴト感じ満載の空気の中、店を後にしたのでありました。トホホ。。。

 

のれんに手押し、糠に釘。ひとり相撲の虚しさだけが残りました(苦笑)。一事が万事、こんな感じです。冒頭で、「フィリピンにはモンカスがいません」のワケがよくお分かりいただけたのではないでしょうか。

 

日本人的にはもうちょっとやる気出してよ、接客がんばってよ、とは思うことはあります。でも他の国で暮したり旅行で買い物した経験からいっても、むしろ、フィリピンが世界スタンダードに近いのかなぁかもと感じる今日この頃です。

オフィスや店、至るところにこんな自動給水機が
オフィスや店、至るところにこんな自動給水機が

◆日本人、疲れちゃってる?!

それにつけても、日本で急増している「モンスターカスタマー」。一体、どうしちゃったんでしょうか。いつからこんなふうになっちゃったんでしょうか。

 

今年88歳になる母親に聞くと、「モノがなかった時代のなごりなのか、昔はむしろ店の人の方が『売ってやる』といった態度だったよ」「とくに専売の酒、たばこ、米屋さんなんかでは、客の方が小さくなっていた」とのこと。

 

それがいつしか・・・「お客様は神様」ではありませんが、顧客第一主義の企業風土を背景に、消費者の特権意識が高まってきてしまいました。たとえ少額であってもお金を払う立場の人であれば、何をしても許されるという感覚・意識が芽生え、少しでも気にくわないと弱い立場の従業員を攻撃する。

 

この背景には、高度成長期やバブル期の金持ち大国のイメージが消えず、貧しくなっていく日本の現実と自分の生活を受け入れられない消費者のフラストレーションがあるといわれています。さらには、情報化社会、格差社会など様々な影響が指摘されていますが、いずれにしても長い不況の影響で社会が疲れちゃって不寛容になってきているのでしょう。

 

久しぶりにフィリピンから日本に帰ると、「日本人、笑顔、なっ!」と感じることがあります。そんななかサービスだけは行き届いています(ときに、見ててこちらがツラクなるくらい)。それはとても有難いことなのですが、「もしかして、やりすぎ?!」と感じることも少なくありません。

おもてなし文化:「感情労働」を強いられる日本の従業員
おもてなし文化:「感情労働」を強いられる日本の従業員

◆「モンカス」対策をフィリピンに学ぶ

 サービス過剰のせいで社会全体が長時間労働を強いられたり、その分商品・サービス単価が高くなったり、さらには人手不足になっていたりすることを考えると、マイナスも決して小さくないかと。だって、別に、フィリピンのあの程度(最低限?)サービスでも慣れれば全く困らないのです。

 

日本は昔から「役割社会」といわれ、個々人が「役割」に徹することをよしとする社会。店員は「店員」の分を、看護師は「看護師」の分をまっとうすべしと周りは期待し、自らも戒めます。それが多少大変でも、ガンバルべし、ガマンすべしとの社会的圧力がかかるだけでなく、自分でもなるたけガンバリ、ガマンしようとします。

 

 先に紹介したアンケート調査では、迷惑行為に遭った時の対応について質問していますが、「謝り続けた」「何もできなかった」が併せて約半数(43.6%)。理不尽な言い掛かりをされても、因縁をつけられても、「謝り続ける」なんて、自分=100%「店員」とでも役割自認しなければ到底できない行為ではないでしょうか。

 

フィリピン人なら間違いなく謝りません。先ほどのエピソードからもお分かりのとおり、自分に非がある(いい加減に探したせいであるのにないと言った)にもかかわらず、Sorryの一言もないのですから。フィリピン人の場合は、自分はいまこういう「役割」を期待されているのだからとガンバったり、ガマンしたりしません。なんという、”人間臭い”というか、”大変なこと回避的”な感じが前面に出ています。

 

「おもてなし」の国を自負する日本。麗しき文化だと思います。しかし、「おもてなし」は行きつくところ相手の過剰期待を生み、お客様をモンスター化させる危険性をはらんでいます。

 

フィリピンで全く「お客様」扱いされたことのない経験からズバリ言わせていただくと、「カスタマーがモンスターになれるのは、一所懸命謝り続けてくれたり土下座という非人間的行為までしてくれる相手(サービス提供者)がいるからなんです!」。

 

対策としては、「毅然とした態度を!」が強調されているようですが、その前に、フィリピン人を見習って、まずはこちらに非がなければ「謝らない」がファーストステップかもしれません。のれんに手押し効果、糠に釘効果はきっと絶大なはず。。。

【筆者紹介】平山順子

 

元名古屋大教育学部准教授(発達心理学Ph.D)

共著書『家族心理学への招待』(ミネルヴァ書房、2019年現在、第2班9刷発行のロングセラー)

現在、フィリピンで英語学校「ウィル・イングリッシュ・アカデミー」を経営

【お願い】ウィルは地元少年サッカーチームSPARTAN FC(貧困家庭の子どもたちが中心)のスポンサーをしています。地元リーグで準優勝を飾る強豪(?!)なのですが、靴はボロボロ、ボールはボコボコが悩み。中古のサッカー用品(靴7~17歳)を寄付してただけませんか? 「お問い合せ」でご連絡下さい。