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フィリピン人にとってもはや日本は魅力ない?!-介護のグローバリゼーションの中で【2】

フィリピン人にとってもはや日本は魅力ないー介護のグローバリゼーションの中で【2】

人口高齢化は地球規模で進行:「思いやりに国境なし」
人口高齢化は地球規模で進行:「思いやりに国境なし」

◆フィリピン人は「看護・介護」職に向いている

これらの客観的事実に加えて、フィリピンの国民性が海外就労向きだといわれています。一般によくいわれるのが、陽気で明るい、人懐こい、フレンドリーなどです。フィリピンが「アジアのラテン」とも「微笑みの国」とも言われる所以です。

 

私もフィリピン人と働き始めて7年になりますが、本当にその通りだと思います。「えっ、すぐ仲良しになれちゃうんだね!」「なんでこんなに楽しそう!?」と不思議なくらい。加えて、彼/彼女らは「ケア」の資質に恵まれています。ここで「ケア」とは、人をハッピーにすることの意味です。フィリピン人は、弱っている人、困っている人にとにかく優しい。一所懸命、励まし、慰め、細やかに世話を焼きます。こんな特性こそ、看護・介護の世界で求められている貴重な特性だと言えるでしょう。

 

前述のとおり、現在、日本の介護現場で働いている外国人は三か国(インドネシア、フィリピン、ベトナム)の出身者に限りますが、フィリピン人介護者についての報告書やアンケート調査を読む限り、評価は上々です。

 

たとえば、「利用者の反応は、(最初、差別的な感情をいだいていた方も)一度なじみになるとかなりの方が満足しているという状況があり、・・・『彼女たちは明るい、温かい、ホスピタリティがある、年寄に優しい、コミュニケーションの取り方が上手、がんばり屋さん』といった点が評価されています」(稲葉敬子『どうへ行く?!介護難民:フィリピン人介護士にケアを受けるということ』p.84

 

「以前勤めた特養に、フィリピン人の方が二人いた。言葉の問題は多少あったが、ケアの細やかさは、日本人よりも上と感じた」(40代・男性)/「特にフィリピン人の女性たちは明るく、年齢にかかわらず可愛らしい方が多いのため、利用者の心を明るくしてくれることが多い」(40代・女性)/「・・・中でもフィリピン人介護士は利用者からの人気も高く、明るく、働き者だ。彼女たちはやる気をもって働きに来る。それを育てきれる職場かどうかが一番の問題であると感じている」(40代・女性)

ウェルクス「外国人介護士の受け入れ」に関する調査に寄せられたコメントから)

 

これらのコメントを見ても、他の国の外国人介護士もいる中で、フィリピン人は「特に」といって評価されているのが印象です。 

 

このようにケアラー(介護士)として優れた資質に恵まれたフィリピン人介護士は、世界的で人気です。高齢先進国の欧米諸国ではすでに数十年前からフィリピン人を「移民」として雇用しています。また、高齢化の速度が日本より速いといわれるアジア諸国(台湾、中国など)では、”お金の力に物言わせて(?)”好条件でフィリピン人の大量受け入れをスタートさせています。

  

フィリピン政府も自国民が介護士として世界中から評価され、求められているので、介護士育成校を建てたり育成コースを作ったり、介護人材の育成に積極的です。こうした介護のグローバリゼーションが進むなか日本でもフィリピン人を雇用する動きが加速してきました。しかし、気になるのは「なかなか難しい」「思うようにいかない」との声が漏れ聞こえてくることです。

日本とフィリピンの国旗を前に神妙に「ご挨拶」を耳を傾けるフィリピン人
日本とフィリピンの国旗を前に神妙に「ご挨拶」を耳を傾けるフィリピン人

◆なぜ日本は魅力的でないのか?

 実は、10年ほど前に前述の経済連携協定(EPA)でフィリピン人材の受け入れがスタートしたときのこと。マスメディアは「これからは看護・介護の現場にフィリピン人が大挙して押し寄せる」と騒ぎ立てました。2005年に、エンターテインメント・ビザが厳格化されフィリピンパブ嬢が激減した直後のことです。「代わりに・・・」くらいのノリだったのかもしれません。

 

しかし、実際はどうなったでしょうか。予測は全く外れました。「大挙して」どころか、「細々と」です。なぜなら、どうやらフィリピン人にとって日本はそれほど魅力の出稼ぎ先国ではなくなってきているらしいのです。

 

日本が魅力的でない理由は、主に次の2つです。

1)ハードルが高すぎる:日本で介護士になって安定的に働けるによるには介護福祉士の国家試験に合格する必要がある。また、高い日本語能力が求められている(最低でも日本語能力検定N3以上)。

 

2)労働条件がきつい:夜勤や休日出勤がある上、慢性的な人手不足なので長時間労働を強いられる。日本人にも3K(きつい、きたない、きけん)職場といわれて敬遠されがちな職場。その割に給与水準が低い。

 

 

これ政府が国策として「海外出稼ぎ」を推進・奨励。よほど体力・気力に自信のある人でなければ尻込みしてしまいますよね。 

外国人向けに、漢字にルビ、病名に英語、受験時間の延長などの対策が
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◆世界規模で進む高齢化

フィリピン人にとって、日本があまり魅力的でないということは、逆にいえば、もっと魅力的な国が他にたくさんあるということです。先進諸国のみならず、アジアの国々でも高齢化が加速するなか、優秀な人材を巡って獲得競争が激化しています。少しでも優秀な職員に来てもらうため、各国とも、労働条件を改善、語学教育への全面援助、滞在要件の緩和など同化政策・移民政策を充実させてきています。

 

たとえば、カナダは、英語が公用語である上、介護士として月収約25万円(日本では15万円くらい)が稼げ、2年間継続して働くことで市民権も得られます。また、米国ではフィリピンで取得した介護士の資格がそのまま適用されます。これら英語圏の国々なら日本語を勉強する必要もなく、また、日本人と同じ介護福祉士国家試験に合格する必要もないので、人気の渡航先となっています。

 

このように国際的な人材獲得競争が激化する状況のなか、ハードルが高く、労働条件が悪い日本に対しては、フィリピン人はあまり魅力がない、ウマミが小さいと感じている様子。どうやら英語圏の国々の”すべり止め”という位置づけのようです。

介護施設での外国人介護士の活躍ぶりが紹介(毎日新聞)
介護施設での外国人介護士の活躍ぶりが紹介(毎日新聞)

◆もっと魅力的な国がたくさんある

記事「フィリピン・パブ:なぜ流行り、なぜ廃れたのか?」で書きましたが、人が盛んに国境を越えて二か国間を往復するのは、プッシュ要因とプル要因が噛み合っているからです。「フィリピンパブブーム」のときは、プッシュ要因とプル要因がみごとに噛み合っていました。

 

しかし、今、看護・介護の分野に限れば、いくら日本側のプル要因(ニーズは大きいが外国人介護士への忌避感も強い)もそこそこ、フィリピン側のブッシュ要因も弱い。なぜなら、そんな高いハードルに挑まずとも、過酷な労働環境に耐えずとも、日本より条件がいい国が他にたくさんあるので・・・。

残念ながら、日本とフィリピンの間のプル要因とプッシュ要因が噛み合っていません。

 

それにつけても、「日本、大丈夫か~?」「世界的な動きに取り残されていないか~?」「私の老後、大丈夫か~?」と嘆きたくなります。最近、老後問題という、”年金だけでは2000万円足りない問題”ばかりが騒がれています。それはそれで確かに切実な問題です。しかし、”たとえお金があっても世話してくれる人がいない問題”はそれ以上に深刻な問題ではないでしょうか?!

 

 

 

(文/junjun @ ウィル・イングリッシュ・アカデミー