
◆フィリピンって、「男女平等」先進国?!

「ジェンダー・ギャップ指数」によると、フィリピンがスゴイんです!
世界(対象国中)149国中第8位。アジアではなんと堂々の第一位(2018)!
世界で最も男女平等が進んでいると言われている北欧諸国に迫る勢いです。
これってスゴクないですか?!
毎年、日本でも発表されるたびに報道されるのでご存じかと思いますが、「ジェンダー・ギャップ指数」(通称、世界男女平等ランキング)とは、世界経済フォーラム(WEF)が、女性の地位を経済、教育、政治、健康の4分野で分析、世界各国の男女平等の度合を指数化したものです。
ちなみに、日本は149か国中110位と世界最低ランク、毎年、主要7か国(G7)中最下位を更新中。
単純に引き算すると、日本はフィリピンより100位以上も下。
◆さすが「男女平等」先進国
実際、フィリピンに住み始めて驚いたのは、女性の方がよく働いていることでした。
外で働く妻やガールフレンドのアッシー君をせっせと務める男性も少なくありません。
で、彼らはというと、彼女たちが外で働いている間は、家で小さい子どもの子守りをしていたり・・・
女性の方が、強いという印象も否めません。
できない、あるいは弱いふりして男性を立てるなんて姿は見たことがありません。
そもそも男女間の関係で、「女子」やら「女々しさ」なるものが全くウリにならない印象。
つい先日も、ショッピングモールの電気店に行くと、20歳台後半とおぼしき女性マネージャーが部下の20名ほどの年配男性を集めて、「こんなことでどうするの」「もっとしっかり働きなさーい」と檄を飛ばしていました。絵になるカッコよさでした。
私たちの英語学校でも、数の上でも実力の上でも女性優位。実力、やる気、人間性重視で採用すると、どうしても女性教師の方が多くなってしまいます(現在約85%)。教え方がうまいと生徒に評判がいいのも概して女性教師です。
彼女たちと話していて感じるのは、考え方がしっかりしていること。
そして、実際、働き者で頑張り屋。向上心も旺盛です。
なかには、昼間、英語教師として働き、夜は大学院や専門学校に通学しながら弁護士やMBA修了を目指している教師も!
う~ん、確かにここは「男女平等」先進国よね、というかむしろ「女性(上位)社会」よねと思わせる光景がココかしこにあります。

◆ホントにこれって「男女平等」?
ところで、あることを契機に「アレッ、もしかしたらちょっと違うかも」と感じ始めたのです。
学校の女性マネージャー(中上流階層出身の30歳代)の家に招待されたときのこと。
彼女の家は、思っていた以上に豪邸でした、といっても広さは日本の中流家庭より少しだけ大きいくらい。
衝撃だったのは、なんとそこに4名ものお手伝いと子守りの女性(内2名は泊まりこみ)が働いていたことでした。
日本の中流家庭で4名のお手伝いさんてありえますか!?
彼女によれば、賃金は日当たったの200~250円ほど。
フィリピンの賃金水準が日本の10分の1とは言え、気の毒になる安さです。
「男女平等」の国っていうけれど、どうやら貧困層女性たちは”蚊帳の外”だったみたいです。
働く女性の足かせとなる家事・育児を低賃金で引き受けてくれている貧困層女性のお蔭で女性の活躍が可能になっていたのですね。
元大統領候補のヒラリー・クリントンの活躍の陰にヒスパニア系のメイドあり。
移民の国、アメリカと同じ構図です。
対する日本、日本の女性が活躍できない理由の一つに、この家事・育児負担があります。
こんな気づきからフィリピンの政治・経済界への女性の進出状況に関心をもち、少し詳しく調べてみました。

◆経済界・政界に女性進出のリアル
フィリピンの管理職の女性比率はどのくらいだと思いますか?
なんと47.6%(ILO , 2015)。ほぼ男女同数と言ってもよい勢いです。
ちなみに日本は、やっと12%。
フィリピンの女性管理職比率は、他の欧米「男女平等」先進諸国に比べても非常な高さです。
どうしてこんなに高いのでしょうか?
ヒントは、企業(法人)規模です。
フィリピンでは大企業がきわめて少数、大多数が小企業(家内企業)です。
企業規模が小さければ、必然的に経営者家族の中の妻や娘が取締役社長などの管理職に就く機会が増えます。
つまり、管理職といっても日本人がイメージする大企業の管理職とはだいぶかけ離れているのが実態のようです。
一方、政治の世界。
ジェンダー・ギャップ指数は女性議員の比率に注目します。
しかし、ここにもフィリピンの特殊な事情が見え隠れしていました。
20世紀後半、約20年もの間政権を思いのままにしたマルコス独裁への反省から、フィリピンでは大統領や議員の任期が厳格に遵守されています。つまり、議員や大統領は6年の任期が過ぎると再選は禁じられています。
しかし、政治家時代に築いた既得権を手放したくないの人の常。
そこで、一度議員を経験した男性政治家は、妻や娘を立候補させ権力を維持しようとします。
こうしてフィリピンでは、これまで2名の女性大統領が誕生しています。
一人は、コラソン・アキノ大統領、暗殺されたベニグノ・アキノの妻です。
もう一人は、アヨロ大統領、5代目大統領の娘です。
日本の「田中真紀子」(田中角栄首相の娘)や「小渕優子」(小渕信三首相の娘)が首相になるようなものです。
これらの富裕層出身の女性議員は、女性といえども、貧困層女性も含めた女性全体の社会的地位の向上などには関心がないことは言うまでもありません。
こうして輝かしい数値の内実をみると、どうやらわれわれがイメージする男女平等からはだいぶかけ離れているようです。

◆そもそも「男女平等」先進国を目指していない
世界レベルで国同士を比較するのって難しいですね。
面積なら実際測れるし、人口ならカウントできるから順位づけOKですが、「男女平等」などという抽象的概念となると測定不可能な気もしてきます。
そこに価値をおいてない国もあるし(フィリピンもその1つだと思う)・・・
しかし、私はここでフィリピンは実際には全く「男女平等」の国ではないと言いたいのではありません。
むしろ世界でもまれにみる「女性(上位)国」、女性の元気指数が男性のそれよりはるかに高い国だと思います。
はたして、それはなぜ?

◆ダメダメの男たちが貢献?!
フィリピン女性の元気指数が高いのは、男がダメダメだからという説・ジョークがあります。
男性がダメダメだから女性が働かざるをえないという説です(私が言っているのではないので、悪しからず!)
女性(妻・母親・娘)が汗水流して稼いだ金で生活する。
なかには、その金で酒を飲み、薬(ヤク)をやり、ギャンブル(主に闘鶏)にうつつを抜かす男性も。
「俺はかあちゃん働かせてどうしようもない男だ」と思っている節は全くありません。
もちろん例外もあるのでしょう。あるのでしょうが、全体的傾向としては当たっています。
男性がこんなふうだから、やむなく女性が働き者・頑張り屋さんになる(いや、ならざるをえない)という構図。
フィリピンに住み始めて2年くらい経ったとき、日本人的は不思議すぎるこの構図を前に理由を知りたくなりました。
女性教師たちに「どうして男性はあんなに女性(母親、妻、ガールフレンド)に甘えてるの」って聞いたことがあります。
そうしたら、「たいてい親も男の子には期待しない。(しっかりしろと言っても)しかたないからと放っておく。けど、女の子だと将来頼れる可能性高いから厳しく育てる」との返事。
男の子への期待感と女の子への期待感がひと昔前の日本の真逆ですね。
この説・ジョークによると、ダメンズがフィリピンの「男女平等」を推進させているってことになりますかね(笑)。

【筆者紹介】平山順子
元名古屋大教育学部准教授(心理学Ph.D)
共著書『家族心理学への招待』(ミネルヴァ書房、2020年現在、第2版10刷目を迎えたロングセラー)
現在、フィリピンで英語学校「ウィルイングリッシュアカデミー」経営